「経営層の1%未満しか、AI投資で20%以上のROIを実感していない」――Forbesの調査が突きつけたこの数字を、多くの企業は「PoCの失敗」の話だと捉えている。だが本当の問題は失敗ではなく、測り方そのものにあるのかもしれない。
何が起きているか
2026年9月16日付でHatchworksが公開した記事「How to Measure the ROI of a Forward Deployed Engineer」は、FDE(伴走型のAI実装エンジニア)がもたらす価値を、企業側が正しく測れていないと指摘する(Hatchworks、2026年9月16日 https://hatchworks.com/blog/fde/measure-the-roi/)。同記事が引用するForbesの2025年調査(経営幹部1,075人対象)では、AI活用で20%以上の業務改善を実感したと答えたC-suite層は1%に満たなかった。Deloitteの調査でも、AIのユースケースが投資回収に要する期間は平均2〜4年とされる。さらに、生成AI導入プロジェクトの約95%が本番定着に至らないというMIT NANDAの調査結果も改めて引かれている。
一方で、FDEの求人数はこの9ヶ月で800%以上増え、報酬は中堅クラスでも六桁後半、条件次第では七桁に届くという。投資は増えているのに、成果を実感できている経営者はごく少数——この矛盾こそが記事の出発点になっている。
背景と構造
Hatchworksが提示するのは、ROIを3つの層に分けて測るという枠組みだ。
1つ目は「発見された価値(Value Found)」。FDEが現場に入って業務の棚卸しをすることで、初めて可視化されるAI活用の候補リストそのものを指す。まだ何も実装していない段階でも、どれだけの改善余地を発見できたかは測定可能な価値だとされる。
2つ目は「出荷された価値(Value Shipped)」。実際に本番稼働したシステムが、特定の業務指標をどれだけ改善したかという、最も分かりやすい成果。多くの企業のROI測定は、ここだけで止まっているというのが同記事の指摘だ。
3つ目は「乗数化された価値(Value Multiplied)」。最初のPoCで得た型や基盤が、次の案件や次の部署への展開をどれだけ加速させたかという、時間とともに複利的に効いてくる価値を指す。Hatchworksはこの3層のフレームワークを、製造業のXometry、決済のVanco Payment Solutions、AI企業のALTAS AI、人材サービスのTrueBlueなど複数の企業事例をもとに解説している。
Hatchworksの主張はシンプルだ。ほとんどの企業は2つ目の「出荷された価値」だけを見てROIを判断している。しかし本当のFDEの価値は、1つ目の「発見」と3つ目の「乗数化」を合わせて初めて正しく評価できる。1つ目だけを見れば投資に見合わないように見え、2つ目だけを見れば平凡な改善にしか見えない。3つの層を通して初めて、投資の本当の効き目が見える、という組み立てだ。
日本の中小企業にとっての意味
これは日本の中小企業にとっても、他人事ではない。多くの経営者が「AIに投資したのに、思ったほど効果が出ていない」と感じる背景には、そもそも測る対象が狭すぎるという問題が隠れていることが多い。
一つの業務を自動化した結果だけを見て「思ったより地味な改善だった」と判断してしまうと、そのPoCが次の業務・次の拠点にどれだけ速く展開できる土台になったかという価値を見落とす。これからのFDEに要るのは、「作る力」より「測る力」でも書いたとおり、測る力が問われるのはFDE個人のスキルだけではない。発注する経営者の側にも、何を測るかを決める力が求められる。
Areeenaが伴走の中でKPI検証と横展開をセットで行うのは、まさにこの3層目——乗数化された価値——を最初から視野に入れているからだ。逆に言えば、AI導入を検討する経営者は、ベンダーやFDEに「今回の案件の成果」だけでなく、「この経験は次にどう使えるようになるのか」まで最初から確認しておくと、投資判断を誤りにくくなる。AI導入の95%はなぜPoCで止まるのかで扱った「作る人」と「使わせる人」の分断も、根をたどればこの測り方の狭さに行き着く。
最初の一歩
自社のAI活用を評価するとき、「今回、何を直したか」だけでなく「次にどう使えるようになったか」まで棚卸ししてみてほしい。自社のAI活用の現在地を、無料の診断で確かめるところから始めてはどうだろうか。
参考記事
- Hatchworks「How to Measure the ROI of a Forward Deployed Engineer」(2026年9月16日) https://hatchworks.com/blog/fde/measure-the-roi/



