FDE 2026.08.14 公開 ・ 読了 4分

マッキンゼーもBCGも、もう『提案する側』だけでは終われない

戦略コンサルティング業界の頂点に立つBCGとマッキンゼーが、2026年、「フォワード・デプロイド・コンサルタント」という新しい職種の採用を始めた。提案書を書いて去るのが仕事だったはずの会社が、顧客先で自らAIツールを組み立てる側に回り始めている。この変化をBusiness Insiderの取材が伝えている。

何が起きているか

Business Insider記者Lakshmi Varanasi氏の報道(2026年8月10日公開)によれば、AIコーディングツールを手がけるCursorの採用責任者Matt Ward氏は、ポッドキャスト「People by WTF」で、フォワード・デプロイド・エンジニア(FDE)が「今、テックで最も需要が高い職種だ」と語った。Ward氏が挙げる適性は明快だ。「深い技術力を自分自身が持ちながら、同時に経営層やリーダーの部屋にも入っていける人材」(“You’re deeply technical yourself. But you can also walk into a room with executives and leaders.”)。

求人データにもその急増ぶりが表れている。Indeedのデータでは、2026年4月時点でFDE関連求人は前年比5,000%以上増加した。OpenAIのFDEチームは前年末時点で39人、米国・欧州・日本で24の求人を抱え、給与は最高で34万5,000ドル(株式報酬別)に達する。

同記事が特に指摘するのは、この波が戦略コンサル業界そのものに及んでいることだ。BCGは「フォワード・デプロイド・コンサルタント」というチームを組成し、顧客プロジェクトの現場で直接AIツールを開発できる人材を採用している。マッキンゼーも、コンサルティング能力と技術的な素養を併せ持つ人材の採用を強化しているという。

背景と構造

なぜ「提案して終わり」を看板にしてきた戦略コンサルが、自ら手を動かす側に回り始めたのか。理由は、顧客がもう「正しい答えが書かれた分厚い資料」に対価を払わなくなったからだ。以前の記事で書いたとおり、AIモデルを作る側の企業自身が、モデルではなく実装に大きな資本を投じ始めている(モデルを作るより、届ける。アンソロピックが15億ドルを賭けた先、AIが『できる』ことと『使われている』ことの差に、OpenAIが1.5億ドルを積んだ)。この流れが、AI業界の外側にある伝統的な戦略コンサル業界にまで波及したのが、今回の動きだと読める。

BCGやマッキンゼーは、長年「答えを出すこと」自体で高額な報酬を得てきた業界の頂点だ。その頂点にいる会社が、答えを出すだけでは仕事にならないと判断し、顧客の現場で実際に動くAIツールを組み立てる人材を、新しい職種として社内に置き始めた。これは「正解を知っていること」の価値が落ち、「正解を現場で動く形にできること」の価値が上がったことの、最も象徴的な証拠のひとつだ。Palantirが2010年代に確立し、AI業界のスタートアップが取り入れてきたFDEという働き方が、いよいよ「提案業」の本丸にまで届いたことを意味している。

日本の中小企業にとっての意味

BCGやマッキンゼーの案件規模は、日本の地方中小企業とはかけ離れている。だが構造として学べることは大きい。世界で最も「提案力」に高い値段をつけてきた会社たちが、提案だけでは顧客に価値を認めてもらえなくなったと自ら結論づけたという事実は、規模の大小を問わない教訓を含んでいる。

現場でFDEとして数多くの導入に伴走してきた実感としても、中小企業の経営者が本当に求めているのは、綺麗な提案書ではない。「結局、誰がうちの業務にこれを落とし込んでくれるのか」という一点だ。コンサルやベンダーを選ぶときに、提案の巧拙だけで判断すると、BCGやマッキンゼーが辿り着いたのと同じ結論に、あとから気づくことになる。最初から「提案した後、実際に手を動かしてくれるか」を判断基準に入れておいたほうがいい。

最初の一歩

今、外部のコンサルやベンダーと付き合いがある方は、次に会う機会に一つだけ聞いてみてほしい。「この提案が形になったあと、実際に現場で動かすところまで一緒にやってもらえますか」。この問いへの答え方で、相手が「提案する側」で終わる会社か、「実装する側」に回れる会社かが分かる。

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参考記事

A
坂田 裕希株式会社Areeena 代表取締役

広島出身。東京大学法学部卒。三菱商事を経て、2015年にD2Cブランド HANDEN を立ち上げAmazonカテゴリ1位を獲得、2021年に事業譲渡。2022年に株式会社Areeenaを設立し、2023年より生成AI事業を開始。日本FDE協会を立ち上げ、中小企業の現場でFDEとしてAI実装に伴走している。

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