英国企業は今後2年でAI投資額を平均4割増やす計画だという。数字だけ見れば、AI導入の勢いはますます強まっているように見える。だがForbesに寄稿された記事が指摘するのは逆のことだ。予算を積むほど、その先に「実装できる人がいない」という壁がはっきり見えてくる。
何が起きているか
Forbes Technology Councilに2026年9月10日に掲載された記事で、英国のAI・技術教育企業Sparta GlobalのCEO David Rai氏は、SAP UKが2025年10月に実施した調査を引用し、英国企業の年間AI投資額が平均1590万ポンドに達し、今後2年間でさらに平均4割増える見込みだと紹介している(Forbes「Why The Future Of Tech Belongs To The Forward Deployed Engineer」2026年9月10日)。
同記事の主張はシンプルだ。投資額の伸びと、AIを実際の業務に組み込める人材の供給は、まったく別のペースで動いている。今後12ヶ月で特に需要が加速するとされるのは、カスタマイズされたリスクモデルを求める金融・フィンテック領域と、レガシーシステムとの統合が課題になる公共セクター・医療領域だ。いずれも、汎用的なAIツールを導入するだけでは解決しない、現場ごとの実装作業を必要とする分野である。Rai氏は、この種の人材を確立された採用市場から調達することはまだ難しく、企業は社内での育成やトレーニングパートナーの活用に頼らざるを得ない段階にあると述べている。
背景と構造
なぜ「金はあるが人がいない」という状態が生まれるのか。PalantirやOpenAI、Anthropicが確立してきたFDE(Forward Deployed Engineer=顧客の現場に入り込み、AIを実装するエンジニア)というモデルは、汎用のAIモデルと、企業ごとに異なる業務・データ・レガシーシステムとの間を、人の手で橋渡しする仕事だ。この橋渡しは、AIモデルの性能が上がれば上がるほど不要になるどころか、むしろ重要度を増す。モデルが賢くなっても、その企業の認証基盤や過去のデータ形式、現場の業務フローを理解して繋ぎ込む作業は、依然として人にしかできないからだ。
一方でこの種の人材は、育成に時間がかかる。技術力だけでなく、顧客の業務を理解し、非技術者と対話しながら要件を引き出す力が同時に求められるため、採用市場に「即戦力」がまとまって供給されることは構造的に起こりにくい。結果として、投資額を増やすことと、その投資を実装に変換できる人を確保することの間に、時間差のギャップが生まれる。英国企業がその現実に直面し始めているというのが、この記事の核心だ。
日本の中小企業にとっての意味
この構造は、答えはもう無料になった。動かせる人間だけが足りないでも取り上げた、米国のFDE人材の争奪戦とも重なる話だ。予算規模でいえば、年間1590万ポンドを投じられる英国企業と、日本の地方中小企業とでは桁が違う。だが構造は同じ、あるいはより深刻だ。現場に何十社と入ってきた実感としても、経営者との最初の会話で出てくるのは予算の話ではなく、「誰がこれをやるのか」という話であることの方が多い。
大企業ですら、実装人材を市場からまとめて調達することができずにいる。だとすれば中小企業がとれる現実的な選択肢は、①採用市場に理想の人材が現れるのを待つのではなく、社内の誰かに実装経験を積ませること、②あるいは、最初から現場に伴走してくれる外部の実装者と組むこと、のどちらかに絞られる。予算をどれだけ確保できるかより、その予算を実装に変換できる人を、社内に育てるか外部から連れてくるか、先に決めておいた方が話は早い。
自社にとって、育成と伴走のどちらが現実的かを確かめるところから始めたい方は、無料の診断をどうぞ。
参考記事
- Forbes Technology Council「Why The Future Of Tech Belongs To The Forward Deployed Engineer」(David Rai、2026年9月10日) https://www.forbes.com/councils/forbestechcouncil/2026/09/10/why-the-future-of-tech-belongs-to-the-forward-deployed-engineer/



