FDE 2026.09.02 公開 ・ 読了 4分

自動化に「終わり」を決めないと、永遠に終わらない

ある企業で、AI推進のための専任チームが動き出して3か月が経った頃だった。給与計算のチェック業務を自動化する打ち合わせに、責任者が加わった。画面共有された計画を一通り聞いた後、その人はこう言った。「タイムカードのチェックだけをこのペースでやるのは、正直、時間がかかりすぎる」。

担当者たちは面食らっていた。2週間に一度の定例で、地道にヒアリングを重ね、業務フローを一枚の図に整理し、着実に前に進めてきたつもりだったからだ。だが指摘は的確だった。「では、いつ終わるのか」という問いに、その場の誰も即答できなかった。

進捗が遅いと指摘されると、担当者は自分の力不足だと受け止めがちだ。だがこの場面で欠けていたのは、能力でも熱意でもない。

「丁寧にヒアリングしてから進める」だけでは、終わりは来ない

世間の正論はこうだ。まず現場の業務を丁寧にヒアリングし、誰が何をやっているかを棚卸しし、優先度の高いところから自動化する。この順番は正しい。実際この現場でも、業務フローの図はきちんと作られていたし、給与計算と見積もりという優先度の高い2つの課題も、最初のヒアリングで正しく拾えていた。

だが、その丁寧な積み上げの先に「いつ終わるか」を置いていなかった。ヒアリングを重ねるほど、直したほうがいい点は次々に見つかる。見つかった点を一つずつ潰していく仕事のやり方は誠実に見えるが、終わりを決めずに積み上げていくと、プロジェクトは体感として永遠に終わらなくなる。

自動化の設計図より先に必要なのは、終わりの定義だ。 何が、いつまでに、どのくらいの状態になれば完了と呼ぶか。この一行を最初に決めない自動化は、着手した瞬間から迷子になる。

なぜ現場ヒアリングだけでは、ゴールが自動的に出てこないのか

理由は構造にある。現場ヒアリングが明らかにするのは「今何が起きているか」であって、「いつまでにどうなっていれば終わりか」ではない。似ているようで、まったく別の問いだ。

前者を積み重ねると、業務の複雑さが見えてくるほど、対応すべき点は増えていく。この現場でも、給与計算の確認作業には複数の担当者と複数のツールが絡み、月10日ほどかけて最終確認まで到達する複雑なフローがあることが分かった。フローが複雑だと分かること自体は前進だが、それだけでは「どこまで削れば十分か」は決まらない。

後者、つまり終わりの定義は、業務の中からは出てこない。現状の作業時間や工程数を基準に、目指す状態を先に仮置きし、そこから逆算して初めて出てくる。この現場では、紙で行っている確認作業に3〜4日ほどかかっている工程を1日に圧縮できないか、という仮説が後から示された。※これは現時点の試算であり、実測値ではない。ただ、この仮説を先に置いたことで、初めて「9月中旬に着手すれば年内に一区切りつく」という逆算のスケジュールが引けるようになった。

以前、FDEが背負うのは、納品物ではなく経営目標だで書いたとおり、成果物のチェックリストではなく経営目標そのものを共有するのがFDEの本来の働き方だ。ゴールを先に握るという動きは、その考え方をより小さな単位、一つの業務の自動化にまで落とし込んだものにすぎない。

積み上げ式の落とし穴は、他の現場でも繰り返し見る

現場に入って何十社かの自動化プロジェクトを見てきて、同じ落とし穴に何度も出会ってきた。ヒアリングは丁寧なのに、「このプロジェクトはいつ、何をもって完了とするか」が誰の頭にも明文化されていない。担当者は目の前の業務を一つずつ良くすることに集中しているので、それ自体は間違っていない。だが、良くする作業には際限がないから、外から見ると進捗が遅く見える瞬間が必ず来る。

担当者自身にとっても、ゴールの不在は「自分はどこまでやればいいのか分からない」という迷いとなって表れることが多い。外部からの指摘という形で気づかされることもあれば、担当者自身が漠然とした不安を抱えたまま手を動かし続けることもある。

前提として、すべての業務が最初からきれいに終わりを定義できるわけではない。要件が固まっていない大きな課題では、まず小さく動かして試すところから始めるしかない。その場合でも、「次の定例までに何が分かれば前に進めるか」という小さな終わりだけは、その都度置いておく必要がある。終わりのないまま試すことと、小さな終わりを積み重ねながら試すことは、似ているようで進み方がまったく違う。

伴走とは、隣に座ることではない

FDEの型は、現場ヒアリング、PoC、定着支援・効果測定の3ステップで説明されることが多い。だが本当に問われるのは、ヒアリングの直後、PoCに入る前の段階だ。以前書いたとおり、AI導入がPoCで止まる原因の多くは「作る人」と「使わせる人」の分断にあるが(AI導入の95%はなぜPoCで止まるのか)、この現場で最初に起きていたのは、それ以前の問題だった。PoCに入る前に、終わりそのものが定義されていなかったのだ。

いつまでに何がどうなれば完了と呼ぶかを、顧客と一緒に言葉にできるかどうか。ここを飛ばして手を動かし始めると、後になってから「いつ終わるのか」を問われ、答えられない場面が必ず来る。

伴走とは、隣にいることではなく、終わりを一緒に決めることだ。

来週、一つだけ確かめてみてほしい

自社で動いている自動化やAI導入の取り組みが一つでもあるなら、来週、それについて一行だけ書いてみてほしい。「何が、いつまでに、どうなっていれば完了か」。もし即答できないなら、それは担当者の力不足のサインではなく、まだプロジェクトの終わりを決めていないというだけのサインだ。

自社の取り組みには、終わりの定義があるだろうか。それを確かめるところから始めたい方は、無料のAI活用診断をどうぞ。

A
坂田 裕希株式会社Areeena 代表取締役

広島出身。東京大学法学部卒。三菱商事を経て、2015年にD2Cブランド HANDEN を立ち上げAmazonカテゴリ1位を獲得、2021年に事業譲渡。2022年に株式会社Areeenaを設立し、2023年より生成AI事業を開始。日本FDE協会を立ち上げ、中小企業の現場でFDEとしてAI実装に伴走している。

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