現場でAI活用の担当者と話していると、似た場面に何度も出会う。頼まれた一つの業務を、きちんと自動化できた担当者が、そのあと足踏みする瞬間だ。
紙のチェック作業をAIに置き換えた。見積書の下書きをAIに作らせるようにした。頼まれたことは、確かにやり遂げている。それなのに、次に何を任されるのかがはっきりしない。評価が頭打ちになったように感じる。
「もっとうまくやれば評価される」という誤解
こういう担当者の多くは、原因を技術力の伸び悩みだと考える。もっとプロンプトがうまくなれば、もっと複雑な自動化が組めるようになれば、状況は変わるはずだと。
だが、現場で何十人ものAI活用担当者を見てきた実感で言うと、詰まっている理由はそこではないことが多い。個別の業務を自動化する実装力そのものが、鍛えるほど誰にでも真似しやすい技術になってきているからだ。自分がうまくなった分だけ、後から来る人もツールの力を借りて同じ地点に早く追いつける。うまく自動化できる人ほど、実は代わりがききやすい、という逆説がここにある。
「使いこなせる人材」だけでは足りない
世間の正論は「AIを使いこなせるようになれば、AI人材として重宝される」というものだ。これは半分は正しい。使いこなせない人より、使いこなせる人のほうが確実に強い。
けれど、その「使いこなす力」が、決められた業務を渡されて自動化する、という手順として説明可能な作業である限り、いずれ誰にでも再現されやすくなる。手順として言葉にできる技術ほど、教材が整い、ツールが賢くなるたびに、習得の再現性が上がっていく。自動化する力はコモディティになる。武器になるのは、どこで終わりにするかを決める力だけだ。
なぜ実装のハードルはここまで下がったのか
数字で見ると、この動きはかなり急である。Gartnerは、2026年までに新規アプリケーションの約75%がローコード技術で作られるようになると予測している(Kissflowによる要約)。2020年時点では25%未満だったとされる比率が、6年でほぼ反転する計算だ。
生成AIを使ったコーディングエージェントの普及は、さらに速い。米Replitが2024年秋に投入したAIエージェント「Replit Agent」は、公開から半年で200万を超えるアプリを生み出し、うち10万本が本番環境で稼働していると報じられている。この間、Replitの有料契約者数は月次45%というペースで増え続けた(Growth Unhingedの取材記事)。かつては専門のエンジニアチームが数ヶ月かけて組んでいたような業務アプリが、今は現場の担当者が言葉で指示するだけで、たたき台まで一気に形になる。
これは、実装という工程そのものが悪いわけではない。むしろ実装のハードルが下がったことで、これまでAIに触れられなかった現場が実装側に回れるようになった。中小企業ほどAIで先頭に立てるというリープフロッグの構造は、この土台の上に成り立っている。ただしその分、「実装できること」自体の価値は、下がる方向にしか動かない。
代わりがきかない人は、何をしているのか
自動化がうまく進まない現場で実際に起きているのは、技術力の不足より、視点の高さの問題であることが多い。頼まれた一つの業務を磨き込むほど、その業務の外側が見えなくなる。この自動化が完成したら、会社にとって何が変わるのかを自分の言葉で説明できる担当者は、驚くほど少ない。
経営者から、こういう趣旨の言葉を何度も聞いてきた。「言われたことはやってもらえた。でも、これで全部良くなるとは思えない」。これは担当者の能力への不満というより、個別最適の積み上げだけでは、会社全体のゴールにはたどり着かないという構造上の指摘だ。個別の自動化には終わりがあっても、会社の業務全体を見渡してどこまでやるかを決める仕事には、あらかじめ用意された正解がない。だからこそ、そこは今もAIにもツールにも代替されにくい。
技術の再現性が上がるほど、評価の重心はこの「読む力」の側に寄っていく。
最初の一歩
今、自分が任されている自動化が一つあるなら、それが完成した時に「会社にとって何が終わるのか」を一文で書き出してみてほしい。書けなければ、それは技術の問題ではなく、まだ会社全体を見渡せていないというサインだ。難しく考える必要はない。今の担当業務の前工程と後工程に、誰が何を待っているかを聞きに行くところから始められる。
答えの出し方が無料に近づいていく時代に、あなたが鍛えているのは、実装の速さだろうか。それとも、どこで終わりにするかを決める力だろうか。
現場で通用する実装力と、その先にある俯瞰する力を体系的に身につけたい方は、FDE養成講座やAI朝活の場を覗いてみてください。



